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すると、澄んだ綺麗な瞳に囚われて、視線が反らせなくなる。
「佳くん?」
返事を催促されて、更に頭の中が真っ白になった。
好きな人に……直人さんに、そんな事を聞かれるなんて、思ってもみなかった事態に、心も頭も痺れたように、上手く働いてくれない。
思考能力が、急速に低下していくのが、自分でも分かった。
「あ……ります」
深く考える事も出来ずに、するりと口が滑った。
数える程しかないけど、高校時代に付き合った彼女と、何度かした事はあった。
でも、プラトニックに近かった恋は、触れ合うだけの軽いキスで、お互いに精一杯だった。
「あるんだ…キス」
直人さんの少し表情が変わった気がした。
ほんの少しだから、もしかしたら気のせいかもしれない。
なんて言うか………少し、からかうような…意地悪な笑顔に見える。
俯いてしまいたいのに、あの綺麗な目に囚われて、反らす事すら叶わずに、揺れる瞳で直人さんを見つめる。
「あの……」
「じゃあさ、キスする時の顔…してみせて?」
「なっ…そんなの…」
「ほら。好きな人を誘うようにさ。目で誘ってごらん」
囁く直人さんの声が、なんだかとても艶っぽく聞こえて、恥ずかしくて死にそうなのに、断り切れなくなる。
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