初体験

2/5
94人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
私は初体験をした場所は暗く寂れたビジネスホテルだった。中がそんなに汚いわけでもなく必要最低限のものは揃っていた。どこの製造会社か分からないようなシャンプーにリンスにその年から5年前の製造のエアコンに冷蔵庫に狭い廊下挟んで二つのベッド。 そのベッドに喜んで飛び乗って荷物を降ろして、中から頑張ってデコレーション下うちわ取り出して自分の胸に押し当てていた。そんな様子を彼は笑ってみていた。別に付き合ってるわけじゃないけど…随分仲良しであった。部活が同じバレー部であったし…アーティストが同じ人が好きだった。 そんな彼に徐々に想いを入れるのはこうやって一緒にライブに出かけるようになった1年前の夏から。何だか一緒に出かける緊張感と、馬鹿になってはしゃぐ高揚感。それでいて帰りやライブ中の紳士的な対応、隣の人のぶつかる手を静かにどかしたり、荷物を持ってくれたり。 でも想いは募る一方で…何も切り出せずいた。彼は180cmと高身長で、スポーツ選手として痩せている体系。とくに腕がバレーをやっているのにしなやかで綺麗で。そしていつも一歩退いたような紳士的な対応をみんなにしている、笑顔もその一つだ。しかしそれゆえに彼の本当の顔が見えない。私をどう思っているか分からない。何度かメールやメッセージで鎌をかけてみたが全てうまく流されてしまった。 いっそ本音を切り出したい。しかしこういった仲良しの関係が崩れるのが怖い。そんな想いを抱きながら今日がやってきた。今日はライブに備え前日からビジネスホテルで二人きりで泊まるのだ。私はうちわを抱えながら荷物の整理、私の分まで合わせてやってくれる彼の背中を見つめていた。予約や予定、支払いの確認をとっている彼は今、私は見えていない。 もちろんこうやって前日に前のりして、豪華じゃないホテルに二人で泊まるのは実に効率的だ。実際お金が安いのはありがたいし、駅から歩いて15分というビジネスホテルにしては不利な立地は価格と静かさという形で還元されているからいい。 しかし、一つ屋根の下に私とあなたしかいない。この状況を彼はどう思っているか知りたい。 そう思っている夜。紳士の彼の内側から牙が姿を見せた。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!