番外編

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「………わからなくなったんです。千波さんの気持ちが……」 「……………」 「心が通い合ったと思ってたのは、俺だけだったのかな…って」 1年前、ここに来た時のことが胸に蘇る。 苦しくて、俺はぎゅっと目を閉じた。 「俺、ここに来る前、とても好きな人がいたんです。……久しぶりの恋で……本当にがむしゃらに頑張って……」 「……………」 「………でも結局、その恋は叶いませんでした」 柚子さんの顔を思い浮かべながら、俺は独り言のように言葉を紡いだ。 友美さんは、黙って俺の話に耳を傾けていた。 「ここに来た時は、もう本当に絶望していて。……辛くて辛くて、どうしようもなくて」 「……………」 「でもそれを救ってくれたのが、他の誰でもない千波さんだったんです」 そこでたまらず俺は膝を折り、その上に顔を突っ伏してしまった。 「………怖いんです。彼女の本当の気持ちを聞くことが」 「……………」 「またあんな思いをすることも、千波さんを失ってしまうことも、何もかもが怖くて……。情けないけど、会いに行く勇気が出ないんです」 自分で言いながら、なんて女々しい奴だと。 俺は、自分で自分が情けなかった。  
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