番外編

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「……ちゃんと、意思表示はしたつもりです。仕事決まったら話があるって、ちゃんと彼女に伝えたし……」 「それは『ちゃんと』って言わへんのよ」 スパッと断言された俺は、口を噤むしかなかった。 友美さんは少し呆れたような目で俺の顔を見返した。 「意思表示なんて、無意味よ。『好きだ』って言葉にして、初めて気持ちは伝わるの」 「……………」 「そんな曖昧な言葉しか言われてなくて、あげくあんな『朝帰り騒動』があったら、千波さんやなくても不安になるわ」 余程イラッとしたのか、友美さんは厳しい口調で言った後、スクッと立ち上がった。 俺は二の句が継げず、無言でその姿を見上げた。 「失うのが怖いって、こんな所でうじうじ泣き言並べてて、何か状況が変わる訳?」 「………………」 「はっきりしてるのは、今千波さんは彼氏と別れてフリーってこと!」 気圧された俺は、ふらりと立ち上がる。 友美さんはズイッと下から俺の顔を覗き込んできた。 「千波さんの勤めてる病院、若いドクター多いのよ!それ以外にも事務員や薬品会社の営業さんやら、出会いはいっぱい!」 「……………」 「ただでさえ新入社員なんて目新しいのに、千波さんみたいに可愛くて気立てのいい子、すぐに目を付けられるんやから!」 ピシャリと強い口調でそう言い置いて、友美さんは家へ向かって踵を返し、スタスタと歩いて行ってしまった。  
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