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「……あれっ?」
意外なことに、上村は道具の扱いにも慣れていた。
「はい、先輩も一杯どうぞ」
そう言って、自信ありげな様子でお茶を私に勧めてくる。
「ありがとう……」
湯呑みを両手で受け取ると、お茶の冴えたグリーンが見えた。立ち昇る香りも芳しい。
一口含むと、爽やかな苦味が口の中いっぱいに広がった。
「美味しい! 意外だわ。本当にお茶淹れるの上手いのね」
この味なら、野々村部長も満足してくれるんじゃないだろうか。
上村は満足そうに微笑むと、お盆の上の部長の湯呑みにお茶を注ぎ、お盆ごと私に手渡した。
「またいつでも淹れてあげますよ。じゃあね、先輩」
「えっ? ちょっと上村!」
持っているお茶をこぼしそうで、上村を追いかけられない。
最初からこうするつもりで、わざわざ自分でお茶を淹れたの?
やられた! なんてずる賢いヤツなの。
……またしても鍵は返してもらえなかった。
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