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一人の老人が、見事な山桜の巨木を前に、物語した。満開の桜を眺めながら。
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それは昔。
上野に一人の少年がいた。彼は名を信時と言った。都の貴族だったが、賊討伐のために下向して、そのまま土着したのであった。
彼の兄は、上野周辺の武士団の盟主として、人々から大変尊敬されていた。
ある時、信時は兄から二千の兵を与えられ、隣国・下野へ進軍した。
盛夏の中での進軍であった。
猛暑である。人も馬も疲れきっていた。しばらくこの辺りで休憩した方がよさそうだ。
総大将の信時は、全軍に休めと号令した。
丁度川が流れている。
兵達は次々に川へ飛び込んで行く。
ところで、この近くには、名水の湧き出でている所がある。老将の俊幸は、かねてからこの湧き水の名を知っていて、機会があったら飲んでみたいと思っていた。
信時は、ふとそのことを思い出して、
「おおじを呼べ」
と、従者に命じた。
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