序章

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「熱がある」  信時の声に我に返り、俊幸は、いつの間にか女の頭の横に回り込んで片膝をついていた信時の顔を見た。 「熱が?」 「うむ。あつけだな」  信時は女の額から手を外すと、深刻そうに眉を寄せた。 「早く水を飲ませて、涼しい所に寝かせてやらないと、死んでしまうぞ」 「ああ、左様でござるな。若君、この娘に名水を飲ませてやりましょう」 「うむ」  信時はすぐ、娘を抱き上げると、泉の池まで運んで行く。  木陰に入ると、娘を下ろし、 「おおじ、柄杓を」 と、手をのばした。  俊幸は素早く水を汲んで、信時の出している手に柄杓を握らせる。信時は、娘の顔を見たまま、柄杓は見ずにそれを握ると、娘の口元に運んでやった。  しかし、娘は飲むことができない。
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