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夜が明ける前に逃げなきゃ。
なるべく遠くに逃げなきゃ、捕まったら又、あの何もない部屋に戻されてしまう。
アタシは裸足のまま、無我夢中で山中を闇雲に走った。
どっちに行けば良いかなんて、分からない。
ただソコにだけは、戻りたくないと、全力で走った。
でもダメ、もう足が動かない。
アタシは大木にもたれ掛かり、滑るように座り込む。
月と樹の影に隠れる。
何ヵ月もずっと寝てばかり居たせいで、情けない程に体力も落ちちゃってる。
動いてよ、足!
悔しくて泣きながら、伸ばした足を叩いた。
その伸ばした足に、気配も無く影が重なる
いつの間に?
アタシ……捕まった!?
嫌だ!
『もう、ほっといて!死んでも良い、病院には戻りたくないの!』
泣き声混じりに叫んだ。
『どうされましたか?こんな夜更けに、若いお嬢さんが。』
……人違い?
星の還しに照らされた、その人は
黒尽くめのタキシードを着た、大きな紳士だった。
ただ、気になる事が一つ。
紳士の口元には
2本の長い牙が伸びていた。
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