1.間違いの始まり

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  * * * 「櫻井、さん?」 突然ですが、事件です。 今、全力で現実逃避したいです。 と言うか、もういっそ、気を失って倒れたいです!私っっ!! 「……は、い」 1週間前。 目が覚めたら知らないオトコが隣に寝ているという、現実では中々有り得ない面白体験をした。 しかも、うっかりイケメンさんだった。 当然、面倒な事は回避するに限る訳で。 ヤツが目覚める前にヤツの携帯から自分の連絡先を消去し、逃げ帰った訳だ。 なのに、何故!!? 何故、目の前にあの時のイケメンさんが居る訳? や、こーゆー設定のドラマとかね?漫画とかね?ケータイ小説とかね?見た事も読んだ事もあるわよ?? これがツクリモノだと言うのならば、私とてそりゃあ愉快に思うわよ。 つまりは、こーゆー事は現実にはそうそう起こらず、経験する人間は一握りだからこそ、面白い訳よ。 何故に、この身に起こるよ? どんな災難だよ?コレ。 あ、ダメ。眩暈がしてきた。 女もアラサーともなるとね、漏れなく血が不足してるのよ。日々、貧血との戦いなんだから。 社食に御曹司が居る。なんて、騒いでて。 一緒になって見に来た私がバカだった。 私、御曹司嫌いなのにっっ!! なのに、何で見に来たりしたんだろ。 普通に仕事してれば、御曹司なんてそう見る事ないのに。 あぁ、私のお馬鹿!! 「少し、いいかな?」 そう薄く笑う御曹司に、苦い苦ぁぁい笑みを浮かべるしかなくて。 周りの社員さんが不思議そうに私を見ていて、 あぁ、今すぐあの窓から飛び降りたい。 ダメだ、ここは10階だよ!死ぬ!! とりあえず、この場から逃げたい。 「久し振り、と言った方がいいか?」 御曹司の部屋に連行され、密室に二人きり。 その言葉に、私の頭は、超高速回転で回避方法を考える。 「……初めてお会いするかと、思います」 出た言葉は、コレ。 必殺!無かった事に!! で、納得してくれないかなぁ? お互いオトナな訳だし。 別に、ちょっと石に躓いた位の出来事だと思うの。 ほら?私、覚えてないし。 「まさか、忘れた。とでも?」 「忘れた。と仰られましても、何の事か解りかねます」 あぁ、猿芝居。 でも、ね? この猿芝居の意味は理解出来るでしょ? 「…………」 「…………」 続く沈黙が、重いです。 あぁ、何か胃が痛くなってきたかも。  
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