36…途切れる

5/8
242人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
一瞬だけ、また夫の表情が曇った。 あまりにも私が平然と答えるからだ。 当たり前じゃないの。 なんで、私があんたなんかと…。 自分の事を、これ以上犠牲にしたくない。 「…そっか。まぁね、確かにパートも長時間にして貰ったばっかりだからね」 それだけじゃないけどね。 私には、ここで。 永田さんを探さなくちゃならないの。 万が一を、私はずっと願ってるんだから。 こんな奴に、何が悲しくて着いて行くもんですか。 「そうなると、ここの家賃と新しい先の家賃を払わなくちゃならなくなるなぁ。一度、上司に相談してみるよ」 「もし、嫌なら考えが一つあるよ…」 私は思い切って言う。 「離婚して、他人になるって手があるよ」 とりあえず、最初は空笑顔でそう切り出してみた。 「なぁにを言ってんだよ、ワッハッハ!(笑)」 浮かれているから、本気にもなれないのか。 「……」 「だったら、そこまでしなくても、実家に戻るなりすればいいじゃない?」 「実家には戻るつもりはない。パートもあるし…。私はこの街が好きだから、やっと住み慣れた、この街から離れたくない…わがまま言ってごめんなさい…」 確かに、私のわがままだ。
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!