第八話 巌流島

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  「とりあえず落ち着け」 押し込むようなデコピンを食らわすと、「ふにゃっ」と間抜け可愛い声を上げて後ずさったので、そのままデコを押し続けソファに座らせてやる。 「むぅ……トレーニングしないの?」 「なんで徹夜明けでロードワークだよ。ぶっ倒れるぞ。そもそもネトゲに体力必要ねぇし」 「じゃあこの昂るテンションをどうすればいいの!?じっと座ってなんかいられないよ!」 「じゃあ寝てろ」 「眠れない。眠るくらいなら素材でも集めに行く」 「よし、じゃあお兄ちゃんの言うことをひとつ聞いてくれ」 「ん、なに?」 アルコールでも入っているんじゃないかと疑いたくなるくらいの無邪気な顔で、一歌はズレた赤縁眼鏡を直しもせずこちらを見上げた。 「目、閉じてろ」 眼鏡を外してテーブルに置き、一歌の顔面を撫でるようにして目を閉じさせる。 一歌は素直に目を閉じ、じっと座っている。 「そのまま横になれ」 一歌の首の後ろに手を当て、膝を持ち上げ、ソファに横たわらせる。 「そのままじっとしてろよ」 「んぅ」 喉の奥からの高い相槌を聞き取ると、俺はそのまま一歌を放置し、食器を片づけることにした。 片づけ終えてソファに戻ると、案の定一歌は寝息を立て始めていた。
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