終焉の彼女

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 女が空を仰ぐと、星がきらめいた。  ノルンの平民地区は暗くなり、遠くにはほのかに光がみえる。  紅石(こうせき)が王宮で使われるようになってからは、日が沈んでからも王宮のまわりは明るくなった。  しかし、平民地区は昔から変わらない。二階建ての集合住宅が狭い路地を挟んでひしめき合っている。女の故郷とは言え、暗い平民地区の圧迫感にため息をついた。  窓からこぼれるかすかなロウソクの 灯りの中、女は歩きながらショルダーバッグに目をやる。 「ありがとう」  女がそう言うとバッグの隙間から白猫が顔を出す。そして、猫は口を開いた。 「どういたしまして」  女はにこりと笑うと猫の喉元を撫でた。猫は満足そうな顔をして目を細める。 「でもこれで良かったわけ? あんたがユウルに連れていくってことだってできたじゃない」  女はくすりと笑うとまた喉元を撫でる。今度は猫が嫌そうな顔をして前足で女の手をはらった。 「きっとユウルへ行くわよ! と言ったってあの子は困惑するだけよ。それに、ユウルに連れていってしまったらカーラへ頼みごとした意味がなくなちゃうじゃない」 「でも!」 「いいのよ。あの子は私やカーラどころじゃない。戦うこともできるし、誰よりも聡い。でもね。冷静なようでまだ青いのよ。だからユウルという場所の名前だけずっと覚えててくれればいいの」  猫の青い瞳の中には赤毛の女が微笑んでいるのが写っている。女のヘーゼル色の光彩に浮かんでいるのは微量の涙だ。それでも女の口角はあがっている。猫は首を傾げた。 「どうして?」 「あの子には間違った選択だけはしてほしくないから」 「……そう」  女は声を震わす。そしてまた猫を撫でた。その撫でている手を猫は小さな舌でなめる。 「もう少しあの子といたかった。でも、もう時間でしょう?」  その女の手は透明だった。ぽたりぽたりと地面へ落ちていく涙の跡ももう、地面には残らない。それでも猫はそれでもひたすらに女の手をなめ続けた。そんな猫の頭をなめられてない左手でなでる。 「ごめんね、リク」  そして、人影は消えた。
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