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男は営業の仕事をしていた。その男を、男の上司が探している。事務所にはまだ数人の社員がいたから、その全員に聞こえるように大きな声で、はっきりと通る声で言った。
「おい、木村知らないか?」
答えたのはひとりの新入社員だ。上司の言葉に誰よりも早く、そんな考えが表情から読み取れた。立ち上がり、やはり上司と同じように大きな声で言った。
「あ、木村さんは逗子の方に行って、今日は直帰です」
「あー、そうだったな。わかった、わかった。なら、いいや。お前、ちょっと来い」
「え、僕ですか?」
答えた新入社員は、相当驚いている。目を丸くし、何か悪いことを言ったのではないか、そんな不安に襲われた。
「部長がああやって聞くときはさ、答えた誰かに仕事を振るってことなんだよ。だから、みんな目も合わせなかっただろ?ま、がんばれや」
隣にいた社員がそう教えてくれた。
「マジですか・・・」
新入社員はしぶしぶと部長の元に向かった。
その頃を逗子では、裸の男の死体が見つかったと、警察が慌ただしくなっていた。
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