信忠軍前へ

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「武士とは明日生きる為でなく、今日死ぬ為に武芸を励んでいるのです。そして武士は忠義を果たせる者に命を預けるは至極の一時」 「……可成よ……私は命を預けるに足る者か?」 「若様は堂々と御命じ下されば良いのです。自由な若様こそが強き姿で御座います」 己が生き方を告げた可成は満面の笑顔を見せながら、膝を着き信忠に手を伸ばす。 そして信忠はその伸ばされた手を離さぬ様に固く握り取り立ち上がった。 「いいですぞ父上ぇ!!この勝臓も命を賭して駆けますぞっぅ!!」 「我も織田武士の端くれ!!この命を奇妙丸様に預け申す!!」 その姿に触発された勝臓も雄叫びを挙げ、周りの織田兵も次々と名乗りを挙げた。 そして忠次もこの光景に拳を握り締めながら、とある事を思いだす。 それは徳川家が今川家から独立する際、徳川家康が決意した時を思いだしていたのだった。 だからこそ忠次の心中にも芽生えた。信忠に賭けるのも一つの手かも知れないと。 「……奇妙丸殿、先の無礼は失礼致した。そこまで言うのなら、微力ながら我が手も貸しましょう」 信忠と織田武士の覚悟は見定めた。これを無下にするはあまりに賎劣といったもの。 「感謝致す、酒井殿」 そして信忠は改めて忠次に頭を下げた。 「行くのだろう?死地へ」 「あぁ……皆の命、私が預かる。」 信忠は馬に騎乗し直して刀を引き抜く。 そして武田軍が居るという岩村城の方角へその剣先を傾けて口を開く。 「……皆……前へ!!」 「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 ただ一言、だがその一言は力強く猛々しくあった。
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