信忠軍前へ

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信忠も忠次が此度の作戦は何としても失敗できないというのは重々に承知している。 しかし信忠もそれは同じであった。 前の時代での三河侵攻は、徳川軍は三方ヶ原の決戦にて惨敗するも、武田家の総大将である武田信玄の病が悪化したが故に事なきを得た。 だが今回は朝倉義景の根回しにより、一年の前倒しで三河侵攻が始まった為に病での撤退はないとわかっているからである。 だからこそ、信忠の考える躑躅ヶ崎館を陥落させる策には武田軍の先遣隊の撃退が必要であり、その為には徳川兵の協力が必要であった。 「頼みまする徳川兵の方々、そして織田兵の皆よ。この信忠に命を預けてくれ」 そして信忠は皆の前で馬を降りてその場で両膝を折り、更に自らの頭をぬかるんだ地に擦り付けるほど深く着けた。 土下座だ。信忠は織田兵や徳川兵の前で土下座して頼み込んだのだ。 「わっ、若様っ!!?いくらなんでもその様な!!」 「否、私は皆に死ね言っているのと同じだ。この程度で足りるとも思っていない」 「だからといって若様にこの様な事をされては我らにも立場というものが!!」 だが信忠の土下座に誰もが取り乱す中、可成だけがなに食わぬ顔でそれに近づいていく。 「若様よ、何やら織田武士の事を思い違いしているんではないか?」 そして可成は土下座する信忠を見て問い掛けた。
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