■ 一日目 ■

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「……なあ、殺人って知ってるか?」 「馬鹿にしてる?」 彼は真顔で答えた。脳の血管が切れた気がした。 「もし! お前が朝から死体を引きずって歩いてたら、だ。それを見たやつはどう思う? 殺人事件だと思って百パーセント通報されるんだ、警察に!」 「じゃあどうすれば良いのさ」 こっちが聞きたいくらいだ。 二十年間生きてきて色々なやつの尻ぬぐいをしてきたが、これほど絶望的な事態は初めてだった。 一年前に普通高校から高専へと進学したオレは、慣れない環境と数少ない編入組だったのもあって、心身ともに弱っていた。 でなければ、こいつとルームシェアなどすることはなかったはずだ。 「……まずは、この死体をどうするか考えよう。明るい未来のためだ。 このまま二人で死体を引きずれば、間違いなく現行犯逮捕される。キレイだから持ち帰ったんです、って理由は不可だぞ。悪けりゃ実刑、良くても精神病院行きだ。おまえには有効な治療をしてくれるかも知れんが、オレは逆に発狂するだろう」 「考えるんだね」 思いっきり無視しやがった。 が、オレも構わず話を進める。 「一番望ましいのが、おまえが警察に出頭することだ。何が良いかって言うと、オレに迷惑がかからないことだ。家賃、ガス代、電気代、その他雑費を面倒見てきた年下の貧乏学生に、少しでも報いる気があればお勧めだ」 「二番目の案は?」 「おまえがこの死体を引きずって、どこか遠いところへ行くことだ。県内じゃだめだ。国外であればさらに良い。おまえと出会ったこと自体が夢だったと思わせてくれ」 「三番目は?」 「まだ必要なのか!?」 涙が出そうだ。 どうしてこいつは、常に汚れた尻を突き出すだけなんだろう? どうしてオレは、毎回それを拭いて回るハメになるのだろう? 「やっぱ道端にでも捨ててくるよ」 「おまえと出会った瞬間にそうするべきだったんだ!」 「過ぎたことを悔やんでも意味がないさ」 律の正論ほど胃が痛くなるものはない。
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