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お財布を引っ掴み、自販機のある休憩室まで鼻息荒くやってきたけれど、そこで急に勢いをなくして立ち止まった。
本当は別にコーヒーが飲みたい訳じゃない。
さっきお気に入りのショップでお高いのを飲んで来たんだから。
一人で何やってるんだろう、私。
不意に自己嫌悪に襲われて、
誰もいない休憩室で顔を覆った。
私さえ知らん顔していれば、
あんな出来事は消えていくのに。
篠田は私なんて完全無視で、
蒸し返す気もなさそうだし、
好都合じゃないの。
けれど私も天の邪鬼なもので、そんな篠田が妙に気に食わなかった。
さっき一瞬だけ目をやった時、管理部のミーハー女子に返答する篠田が微笑んでいたからだ。
「何よ…」
その時、コツ、と背後で靴音がしたので慌てて背筋を伸ばし、顔を引き締め振り返った。
…ところが、
私があげたのは声なき悲鳴。
「おはようございます。亀岡先輩」
入口に立つ男は篠田だった。
まるで土曜の朝の再現のように。
土曜と違い、服は着ているけれど。
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