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「…おはよう、篠田君」
土曜の朝の裸だった自分を思い出して、かぁっと顔が熱を持つ。
けれど彼は形だけの挨拶以外は何の反応もなく、あっさりと休憩室に入ってきた。
長身の彼が近づくにつれ、広いはずの休憩室がどんどん狭くなるようで、息が苦しくなってくる。
「……買わないんですか?」
お財布を握り締めたまま突っ立っている私に、篠田が冷たい眼鏡の奥から無表情に尋ねてきた。
「か…買うけど」
「どうぞ、お先に」
引っ込みがつかなくなった私は仕方なく自販機にお金を入れたけれど、背後の彼が気になって選ぶどころではない。
早く、早く。
堪え難い沈黙に背中に汗が滲む。
とにかく一刻も早く逃げ出したくて適当なボタンを押したのに、自販機は騒々しい音を立てながらおつりを吐き出し始めた。
もう、何でこんな時に…!
「二日酔いは大丈夫でしたか?」
まるでタイミングを見計らったような篠田の突然の言葉に飛び上がった私は、不様にも取り出した十円玉を床にぶちまけてしまった。
「ご、ごめんなさい」
転がる十円玉を追いかけ、あわあわとしゃがみ込む私の前に、不意に彼が屈んだ。
えっ……?
驚いて固まる私の身体に、彼の長い腕が伸びてくる。
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