第18章 万里の過去

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――…… 豪邸と呼べるほどの大きな屋敷 様々な花が咲き乱れる庭は専属の庭師が手入れをしている その一角にこじんまりと置かれたテーブル そこは小さな万里のお気に入りの場所 「ふふっ」 高く伸びた草木は万里の身体をすっぽりと覆い隠す 口元に手を当て、小さく微笑むと 離れた場所で自分を呼ぶ声が聞こえた その度に笑みが溢れる 「見つけたっ」 がさり、と音を立てて掻き分けられたそこから顔を出したのは 「兄さまっ」 万里と2つ離れた兄、京秀(ケイシュウ) 「もう、またこんなとこに…… 母さまが探していたよ?」 息を切らせ、汗をかいた額はどれほどの時間探していたのかを物語る 「……お稽古、嫌い」 笑みを浮かべたのも束の間 自分を探していた理由を知って口を尖らす 「……万里?」 京秀はしゃがみこむと目の高さを合わせ、万里の頭の上に手を乗せた 「母さまは万里が素敵な女性になるようにお稽古をしてくれるんだよ? 万里は兄様みたいになりたいんだろ?」 「……なりたい」 言い聞かすように話せば小さく頷き、呟いた 「じゃ、行こう」 小さな妹の手を引いて、世話を焼く兄 こんな微笑ましい日々がずっと続くと思っていた 変わらず優しい兄であると信じていたかった……
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