☆ 聖人君子の噂 ☆

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柔らかな声音でやんわりと断わられ、普段、平社員の私があまり来る機会のない部署を退出した。 清算は出来なかったが、思わぬ収穫にほくそ笑む。 先ほど刻んだ観察データを、脳内で再生しながら。 ニヤついた顔のまま部署に戻ると、部長から容赦ない報告書の催促が飛んで来た。 「昼一で上げます」 「遅いんだよ、お前は。 どこに行ってたんだ? サボってる暇なんてないだろう」 クッ… また始まった。 部長の嫌味な小言が。 「サボりじゃないです。 経理課に清算に行ってました。 課長には言って…」 「口答えするな。 営業成績も悪けりゃ態度も悪いんだから…まったく」 「……すみま、せん」 両方の手をきつく握り締め、悔しさを堪えながら部長に頭を下げた。 同じ上司と言えど、秋山課長とは天と地の差、月とスッポンだ。 一見、部下の好き勝手な振る舞いを許しているようで、要の部分ではきちんと手綱を握っていた秋山課長。 横暴でもなく、優しく諭すような言い方で部下を上手くコントロールしていた。 いいな、経理課は。 この薄らハゲ部長と交換してくれないかな。
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