告白

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告白

 学校帰り、いつも寄り道をしていた。高校生になって電車で通学するようになった哲司を、中学生のまりあと類が駅で待ち伏せする。 哲司は二人を見つけると、呆れたように「またいる」と呟くのだが、すぐに三人はいつものように並んで歩き出す。 『コンビニ寄ろうよ、アイス買いたい』『太るよ』『うっさい』『受験のせい?まりあなんか太ったよね?』『うあー最低!てっちゃん!類が最低!怒ってよーっ』 哲司は可笑しそうに笑って、軽口を言い合う二人を眺めている。 世界は三人だけで成り立っているような、そんな錯覚すらできてしまうような、まだ子供だった三人。 類は何だかんだと悪態を吐きながらも、ひとつ年上のまりあといつも行動を共にしていた。二人で哲司にまとわりつくのはもう癖のようなもので、まりあと類が喧嘩をしても口をきかなくても、駅に向かうとどちらかが必ず先に来ていた。 憎まれ口をたたき合っても、傍らに哲司が黙って歩いているだけで、自然ともとに戻る事ができた。 類はまりあの事を随分昔からずっと好きだったのだが、三人でいるこの居心地の良い場所を失ってしまいそうで、まりあに自分の想いを伝えるような事は一度もなかった。 そして、類は、まりあが哲司に恋をしたその瞬間に立ち会っていた。 幼い頃から常に一緒にいた人間が、自分のなかの特別になるには、きっと必ずその時間、その瞬間の小さな思い出がある。  学校帰りにいつも立ち寄っていた、河原の大きな石に腰掛けて、相変わらず何をするでもなく、三人並んで西日を反射させ光る川面を眺めていた。 夏の終わりの、少し気怠い夕方だった。 まりあはその日、学校で何かあったのか少し沈んでいた。いつも笑ったり怒ったり忙しなく変わる彼女の表情は少し暗くて、類もいつものようにからかうようなことはしなかった。何か彼女を元気づける方法はないものかと思案してみても、普段の素行が悪いせいか一向に良い案が浮かばない。 生まれ持った性質も手伝って、思春期真っ只中の中学生男子には少し荷が重かった。 何も言わずに遠くを見つめるまりあの横顔を、哲司は黙って眺めていた。 そして、おもむろにまりあの頭に手を乗せた。 まりあは驚いたように一瞬首をすくめたが、そのまま自分の膝に顔を埋めただけだった。 哲司もまりあの頭に手を乗せたまま黙っていた。
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