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ふと背後に気配を感じて振り向くと、
「───っ!」
伊織が壁にもたれかかってこちらを見ていた。
コトを終えて俺がシャワーを借りた後に伊織も浴びに行っていたのだけれど。
いつの間にあがっていたのか、音もなく現れるのは流石に心臓に悪い。
「…ビックリした。伊織、もうシャワー浴びたの?」
「ああ。」
下は部屋着のロングパンツを穿いているけれど、上半身は何も身に付けていない伊織。
程よく筋肉がつき、綺麗な逆三角形の体型だ。
何度も目にしているのに、その逞しい身体から漏れだす色気には慣れない。
目のやり場に困り、俺は慌てて前を向いて飲み物の準備を再開する。
「伊織、何飲む?」
前を向いたままそう訊ねると、
「雅臣が淹れるなら、何でも。」
返ってくる応え。
優しくて、俺だけに向けられる甘さを含んだ声音。
心地よく耳朶を刺激するその声だけでも、甘い感情を呼び起こすのには充分だ。
……なんだけど。
「………」
「………」
先程から背中に刺さる視線。
それは間違いなく伊織のものなんだけれど、会話もなくただひたすら見られているというのは流石に……気まずい。
落ち着かない気分になり、飲み物を準備する動作もぎこちなくなる。
「………」
「………」
き……気まずい……!
別に何も疚しいことはないのに、なんでこんなに気まずいんだ…!
伊織も伊織で、こんな沈黙の中、俺を見ているだけで飽きないのだろうか…。
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