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俺は、夢でも見てるんだろうか。 事故に遭い、意識不明の重体だった筈の幼馴染が、目の前で元気にしてるのだ。 それも、幽霊だとか言って。 ただ、真実だと理解するのにさしたる時間はかからなかった。 …というのも、彼女が飛んで見せたり床を透過して見せたりしたのもあるのだが、何より─── 抱き締めた時に、ぬくもりを感じなかったからだ。 俺は今、どんな顔をしてる? 泣き出しそうなのを必死に堪え、笑って見せる彼女に、俺はどんな顔をしている? 一番辛い思いをしてるであろう、俺の一番大切な女の子の前で…俺は情けない顔を見せてやいないだろうか。 「あのね、私…」 俺の心境を慮ってか、彼女は…ミチルは間を置かずにぽつぽつと、これまでの思い出を語り出した。 小さな頃、給食のプリンやゼリーやムースを、いつも俺がやっていた事。 最後の一品となったアイスを取り合って、ミチルが年上のガキ大将と揉めて泣かされていたところを、俺が助けた事。 中学に入り、お菓子に釣られて三年の先輩に無理矢理迫られたところに、俺が殴り込んで助けた事。 高校に入り、数量限定で売店に並ぶ、五分以内で売り切れ確実の菓子パンを、いつも俺が取ってやっていた事。 去年のクリスマス、なけなしのバイト代をはたいて高級レストランのコースを奢った事。 「…改めて聞いてると、お前ほんとに食べ物の思い出ばっかだな。」 「えへへ。」 そんな食い気ばかりが先行するミチルだが、こうしてはにかんだ顔が可愛過ぎて、今一度抱き締めたいと思ってしまう俺はよっぽど重症なんだろう。 クリスマスの時なんて、レストランの後に渡したプレゼントのアクセサリーより、帰りにコンビニで買ってやったプリンの方が嬉しそうにしてたけど、俺はそれでもいいか…なんて思ったものだ。 「…とにかくね、いつも、ほんとに、ありがとう。 その、私ね? キョウスケの事───」 「待った。」 だから…この先だけは、譲れない。
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