愛せない女 Ⅶ

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「って、ちょっと待ってよ!」 先々歩いていくトラを小走りで追いかける。 「また飲みすぎたんだろ。」 横にならんだわたしを見下ろしながらトラは言う。 「そんなこと…ないわよ。」 足元に転がる小石を蹴り飛ばすと、 数歩先に転がった小石を今度はトラが蹴り飛ばす。 「で、いい年して朝帰りですか? 男、できたの?」 呆れたようにトラは言う。 その言葉から逃れるように、上を見上げると いつのまにか青空が広がり、気持ちの良い秋の空になっていた。 両脇に樫や楢などたくさんの広葉樹が植えられている公園の遊歩道。 水溜まりを避けながら歩く私たちは右へ行ったり左へ行ったり。 一呼吸して尋ねる。 「トラはさ、 本気で人を好きになったことあるの?」 「は?何、いきなり。」 怪訝な顔のトラを見て、何て幼稚な質問だ、と恥ずかしくなる。 「何、…本気で好きなヤツでもできたわけ?」 わたしの質問には答えず、 トラは目を細めて言った。
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