三章

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3  屋敷の中の炎の回りは早い。煙は既に屋敷に渡っていた。  入口まで直ぐの筈の位置でハーティとセルシオは揉み合う。  男同士だ。手加減を知らない。子供の頃はセルシオの腕っぷしは強かったが、手の早さはハーティのほうが早かった。時間と経験が二人の性格にも異変している。二十八歳の二人は、力としては同等であった。 「二人とも!」  リシアが入ってくる。頭も服も水浸しだ。  ハーティがセルシオを取り押さえる。やっと体制が入れ替わったのだ。 「手伝って!」 「馬鹿にするな! 離せっ」  ハーティが暴れるセルシオを運ぼうとする。リシアが急ぐようにセルシオの衣服を掴んで外に出すことを手伝った。 「止めろ、放っておいてくれ!」  子供のようにセルシオが騒ぐ。 「そうは行かないよ。このまま死なれては困まる!」  ハーティは言った。この大陸に双子を見分ける術はない。親も亡くなった今、セルシオとハーティを見分ける人物は少ない。服を同じにしてしまえばテトラですら見分けることができないのだ。ハーティは小さな頃からそれが億劫だった。セルシオの恋人がハーティをセルシオと間違えたことがある。その時ほど困惑したことはない。セルシオもハーティの女友達に間違われていた。双子だと言うことをハーティはどこかで呪っている。今も昔も変わらないことを認識する。
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