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一方、響はと言うと。
午前中に挨拶回りを済ませ、その他事務所内の各設備に関する説明を受け、その後は上司との面談、その次は新しく渡された社内ノートPCの初期設定等など、慌ただしく時間が過ぎ、気づけば夕方になっていた。
「桜井クンお疲れ様。どう、順調?」
「はい、ありがとうございます。何とか設定完了しました。」
教育担当の中村さん。部署歴は今年で5年目との事。
昼食の時に聞いたところ、どうやら嘉人と同い年。営業部から直ぐにこの部署に異動になったとの事。
「折角だし、歓迎会やろうと思うんだけど。時間空いてる?」
「あ、はい!ありがとうございます!」
「良かった。課長!2人とも今日大丈夫ですって!」
課長デスクの所からニュイっとグッドサインが上がるのが見えた。
本部から離れた事務所ということもあり、
大分フランクな職場だ。
「桜井大丈夫?彼女さん結構寂しがり屋さんってウワサだったけど」
ひょっこり現れたのは、俺と一緒に今回大阪の事務所に異動になった三嶋さん。同期だ。
「んー、いや。うーん」
虚をつかれ、いい言葉が出ない。
「あっちはどうかわかんないけど、どっちかって言うと俺の方かな」
「へえ、桜井そうゆう感じなんだ。へえ?」
「なになに、どうしたん?」
あまり関西弁は出ないと思っていたが、中村さんが三嶋さんの意味ありげな『へえ?』に気付き、食い気味に反応する。
「中村さん、聞いてません?桜井、彼女の為にこの1年で結果残さなきゃなんないんですよ」
「あー!なんかチラッと聞いてるわ。『教育担当として結果出させなアカンな』って課長と話しとったわ」
「おい、中村。『教育担当』らしく行くんじゃ無かったのかー」
「かちょーっ、ソレは言わない約束やったでしょー」
どうやら、今の中村さんが素のようだ。
けれど、咳払いをしてまた標準語に戻る。
「さて、募る話もあるわけだし、さっさと残りの作業終わらせまショ。三嶋サン桜井クン何食べたい?」
「大阪と言ったら、たこ焼きとかお好み焼きとかですよね?」
「まあ、どっちかというとたこ焼きは家で作る方が多いかな。ここら辺だとお好み焼きもあるし串カツの店もあるけど」
「串カツ!イイですね!食べたいです!」
三嶋さんが手を上げる。
「串カツ1票」
課長席から声が聞こえる
「かちょーは店長さんに会いたいだけでしょ」
グッドサインがまた伸びる。
「桜井クン、串カツでいい?」
「はい、是非!」
そんなタイミングで、スマホに通知が。
『響、初日お疲れ様。今日は元木と飲んでくる予定だ。そっちはどうだ?』
嘉人だった。
「すみません、ちょっとトイレ行ってきます」
事務所を抜けて、スマホを取り出す。
『何とか順調。先輩方も良い人達だよ。この後歓迎会してくれる事になったよ』
『そうか。良かったな。楽しんで来いよ』
既読が早い。返信も直ぐに来た。
お互い自分で予定を入れたのに。
メッセージが続く。
途切れない。
今この瞬間、お互いにメッセージを送りあっている。
こえ、ききたい。
『『 』』
メッセージを打つ指は、そっと通話ボタンに移動する。
「「桜井!!」」
嘉人は笹倉に、響は三嶋に呼ばれ、振り返る。
そしてスマホをポケットにしまう。
まずい。
あいたい。
今からこんなんじゃ、耐えられない。
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