思いやりの空砲

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  「あれ」  思わず声が出た。  放課後。西日が差し込む教室。窓際の一番後ろの席に、中原は座っていた。 「あっ……笹山くん」  中原はどこかオドオドした表情でこちらを向いた。色白の顔が夕日を受けて、オレンジ色に染まっている。 「お前、何でここにいるの?」  中原の斜め左前の机へ向かいながら尋ねた。息が上がっていたせいで、少し大きめの声になった。 「あっ、僕はいつも教室に残って勉強してて! それで今日も、勉強」  何故か上ずった声で答える中原。横目で見ると、今日授業でやった数学のテキストが机の上に広げられていた。  ふーん、と返事をしておく。  席に到着。机の両脇に置いてあった学校指定のカバンと部活用カバンの両方の紐を掴み、左肩に掛けた。 「笹山くんはどうして? 部活じゃないよね?」 「ああ。委員会で残らされてたんだよ。これから部活」  窓の外へと視線を移す。野球部がグラウンドでノック練習をしているのが、ここからでも見えた。 「そうなんだ」  中原も窓の方を見た。  コイツのことはあまり知らない。俺とは違う地区の小学校出身で、1年生の時は別のクラス。  勉強はできる、だけど運動はダメで面白くもない地味な奴。それが3ヶ月間同じクラスで過ごして俺の中で生まれた中原のイメージだった。  
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