【鶯の声】

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  「飛鳥さん、顔、見せて下さい」 「やだ……」 「お願い、します」  伊達先生は甘くて優しい声で、あたしにそう促すけど。  逆らい続けたら、きっと本気で怒り出す。  この人は、そういう人だ。  自分のプライドと戦いながら、ぐす、と洟をすする。  その動作でごまかすように、手をどけた。 「泣いてるんですか」 「泣いてない……」  伊達先生の薄い口唇の間から、赤い舌が覗いた。  めったに見ることのできないその鮮やかさに、身を固くする。  彼はお構いなしに、あたしの目尻に舌をなぞらせた。 .
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