第1章

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「先輩」 小銭を持って自販機に向かう先輩をフロアを出たところで呼び止めた。 「どうした?」 「……あの」 出かけた言葉が喉元で詰まる。 眉間にシワを軽く寄せて先輩が首を傾げた。 「何かあった?」 「……いえ、仕事のことでは無いんです」 「……そぅ」 それを聞いて肩の力を抜く。 「え、じゃあ何?」 ワンテンポ送れて先輩が驚く。 「……すみません、やっぱりいいです」 「え?」 戻ろうとしたら腕を掴まれた。 「羽山どうしたの?何かあったなら言って」 「……いえ、仕事中に話す事でも無いので」 先輩は手を放した。 「分かった、じゃあ仕事終わった時に聞くから」 「はい」 頷くのを見てから先輩は背を向け歩き出した。 こんな事、気にしなければいいのに。 こんな事で乱されるなんて……情けない。 6時過ぎに課長が先に行くと言って出て行った。 今日は既に親元さんも、嶋野さんも小池さんも帰ってしまった。 目頭を抑えて俯いていたら 「お疲れさま」 コト、という音と共に先輩の声が降ってきた。
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