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「木崎さん、及川建設草間さんから1番です」
その名前に耳が反応した。
「はい。
お電話変わりました木崎です。
先日はありがとうございました。
……え、そうなんですか?」
話し方は他人行儀だけど、声が明るいのがよく分かる。
「はい。よろしくお願いします。
あ、居ますよ。
少々お待ち下さい。
課長ー。草間さんから1番です」
カチャ
受話器を置いた先輩の顔が穏やかに緩んでいた。
「……」
家族と会った時みたい。
会社の人には見せない顔。
暫くして、話を終えた課長がこちらに来た。
「木崎、今日夜あいてる?」
「そんなに早くは仕事終わりませんが……」
課長を見上げながら先輩が言う。
「草間から誘いがあったんだけど木崎も空いてたらって、どうする?」
「じゃあ、顔だけは出すようにします」
「わかった。店はまた連絡する」
「はい」
先輩が頷くとさらりと髪が前後に動く。
「…………」
ほら、警戒域の内側だから何時もは行かない飲みの誘いも良い返事をした。
ちりちりと胸の奥が燻るのを感じて、息を深く吐き出した。
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