第1章

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テーブルには缶コーヒーが置かれていた。 「あ、ありがとうございます」 「体調悪いの?」 「いえ……ちょっと疲れ目です」 「そ」 「先輩どれ位で出ます?」 「ん……1時間で終わらせたいなと思ってるんだけど」 「そうですか」 カチカチとマウスを動かしながら 「あ、そういえば廊下で引き止めたのって なんだったの?」 と、先輩が顔を向けた。 「…………」 目を合わせて数秒黙っていると 「解決したならいいんだけどね」 と、ディスプレイに視線を戻した。 言えないですよ、こんなこと。 こんな、ちっちゃなこと思ってる自分に驚いている位なんだから。 思ったよりも進まない仕事 貰った缶コーヒーを口にした。 「じゃあ、そろそろ帰るわ」 先輩が席を立つ。 「お疲れさまです」 「お疲れ」 「……先輩」 「ん?」 「今日……行ってもいいですか?」 先輩が声も発さず目を丸くして見下ろしている。 フロアに残った人は少ない。 会話が聞こえる距離には誰もいない。 「今日は……やめよう」 予想していた答えなのに なぜか喉の奥が締め付けられる感覚。
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