第1章 森の中の城

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   方位磁針と地図を頼りに、茫々とした小道に入るとそこは馥郁(ふくいく)たる合歓木(ねむのき)や茱萸(しゅゆ)といった様々の樹木や草の香り立つ深い森、どこまでも続くような深い森の中にでた。  夏の日差しが、樹木に絡まった蔦をすり抜け樹木を所々白くしていて、納屋が犇き合い、馬小屋が数棟在りながらまるで人の気配がしない。建物の屋根は節々朽ちて何年も雨風にさらされそのままの状態で錆び付いた赤茶色の閾(しきい)は、ほぼ半分が無くなり地面にその破片が落ちている。  まるで長い年月をかけて、この深い森が一つの屋敷を呑み込んでしまったかのようだ、とファント・シュシルは思っていた。  透き通るような右目はエメラルド、左目はブルー色の瞳をした長身の白い肌の若者。髪の毛は茶色く真ん中よりやや左に分け目があり襟足迄髪が伸びている。整った顔の長い睫(まつげ)からは性格が滲み出てくるような優しい眼差しがシュシルの腰元のポケットの内側に僅かの間向けられる。    image=485350806.jpg
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