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clock’n’city
澄んだ大気の中を一匹の妖精がカリリンカリリンと音を立てて飛んでいく。
組み合わさった平歯車が小さな羽を振動させて飛ぶ、手の平サイズのギア・フェアリィ。
ボウイはその小さな飛行物が見えなくなるまで眺めてから、再び歩き出す。
妖精はどこへ向かっているのだろうか。
いや、あれは決まった経路を定期的に飛んでいるだけのオート・マタだ。
城壁の中でひしめくように並ぶ石造りの建造物。
競い合うように空を突き上げる無数の尖塔。
ここクロック・シティは時計仕掛けの街。
たった一つの時計が全ての物の動力源。
時計はカテドラルの地下でティックタックと時を刻み続ける。
至る所に組まれた、ガリンコガリンコと動く大小種々の歯車がその力と意思を街の隅々まで伝達し、妖精の一体に至るまでが動力と行動を得る。
ここでは時の流れが街を呼吸させる。
そして全ての物はその呼吸に則って活動する。
自発的な営みを行う物はわずか。
街の機能に反した目的を抱く者となると、おそらくボウイ一人だけ。
ボウイの目的は街の呼吸を止めること。
街の父なる、時計の破壊。
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