のぞみのうで

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 その日から、NOZOMIの日常に、赤ん坊が入ってきた。  どんな時でも、注意深く見ていなければならない、小さな彼女。  全てのことがはじめてだった。  苦戦した。  知っていることと、できることとは違うことをNOZOMIは知った。  人間は、赤ん坊でも食べ物を摂取する。  その分。 「……くさい……」  NOZOMIは顔を顰めた。 身体の大半が鋼鉄である彼女は、でも顔の部分だけは、感情に合わせ表情が変えられるように創られていた。  赤ん坊が、小さい割にはよくそれを出す度、博士は逃げた。  だから、NOZOMIがやらなければならなかった。  不快そうに泣き喚く赤ん坊を放っておくわけにもいかず、どうにか手に茶色いそのどろどろとした物体が付着しないように、最初は苦労した。  『うぐぅ……』と四苦八苦している彼女を遠目に見ている博士に、投げてやろうかと時々思った。  処理し終わった後のすっきりした赤ん坊の顔を見れば、先ほどの嫌な思いが吹っ飛ぶのが不思議だった。 「名前?」  母親がいなくなってしまい、小さな彼女の名は分からないままだった。  二日経っても、「おい」「おまえ」と呼ぶNOZOMIを見兼ねた博士が、提案する。 「腕に、名前がない」 「それは、まあ。ちゃんと名前があるはずなんだけど、お母さんが亡くなってしまったからね」 「無くなった……」  NOZOMIには、知識があった。  しかし、分からないことだらけだった。 「トモ……」 「ん?」 「トモにする」  NOZOMIの腕の中ですやすやと眠る小さな彼女を、NOZOMIはそう呼ぶことにした。  トモは、お腹いっぱいになると、落ち着かない性格のようだった。
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