番外編②joyful days

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でも、もう彼女を見て心が激しく動くことはないと言い切れる。 それは、俺が新たな恋に出会ったからだろう。 「いや、何でもないよ。お疲れ様」 すると、受付の前を通り過ぎた俺の背中に彼女が言葉を投げかけた。 「何があったのか知らないけど、元気出してよ。最近、哀愁漂い過ぎだから」 くだけた言葉使いに驚き振り向くと、彼女は強気な顔で俺を見たかと思えば、ふっと子供みたいに無邪気に笑った。 周りには他に誰もいない。 だからこそ、彼女は俺を元気付けようと敢えて敬語を使わなかったのだろう。 それにしても、哀愁が漂っているなんて……間違いなく、久し振りに恋をした子に失恋したことが原因だ。 「忠告どうも。気をつけるよ」 受付で顔を合わせるだけの彼女に見破られているのだとすれば、恐らく秘書の相葉さんにも全てお見通しだろう。 本気で気を引き締めなければ……と思いながら、会社を出た。 外は雨が降っている。 予め朝の天気予報で雨になることはチェック済みだったため、鞄の中から折り畳み傘を取り出した。 そのとき、突然耳にヒールの足音が響いた。
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