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「私、やっぱり川野さんと……!」
彼女の言葉を最後まで伝え聞く前に、俺は彼女の華奢な身体を抱きしめていた。
「あの、川野さん……」
「僕から、もう一度言わせてほしい。……僕と、恋をしてくれませんか」
その瞬間、彼女の手が僕の背中に回った。
その手は、小さく震えていた。
その震えが俺の体にも伝わり、愛しいと感じた。
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
雨の中、こんな道端で女性を抱きしめる俺は、相当みっともないだろう。
でも、今だけはどれだけみっともなくても構わない。
手に入ると思っていなかった。
もう、この身体に手を伸ばし触れることなんて諦めていた。
けれど彼女は、ここにいる。
俺の腕の中で、綺麗な涙を流しながら。
「川野さんまで濡れちゃいます……」
「濡れたっていいよ。後で乾かせばいいんだから」
「ダメです。川野さんが風邪を引いたら大変です!大人の風邪は治りにくいんですから」
つい先ほどまで綺麗な涙を流していた彼女は、初めて会ったときのようなしっかり者の彼女に戻っていた。
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