失恋、しました

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仕事が終わり、部屋に戻る。 「はぁ………」 覇気のない溜息を落とし、自宅の扉の鍵を開けた。 そして、昨日履いていたハイヒールに気が付いた。 玲央さんからもらったそのハイヒールは、私の心とは違ってキラキラとそこで輝いていた。 思い出の残像だ。 片付けないと………。 玄関脇の電気のスイッチに指を伸ばす。 パチッ。 あれ、付かない? もう一度スイッチを押す。 パチッ。 パチッ。 パチッ。 何度も押してみたけど玄関の電気は切れているのか付かなかった。 暗いわ。 私も暗いけど………玄関まで暗いわ。 諦めて薄暗闇の中ハイヒールを横の靴棚に収めると、トボトボと部屋の中に入って行った。 ふぅと息を吐いて、ソファに座る。 ボーっとすると、つい思い出してしまう智志さんのこと。 智志さんが好き………。 気付いた時には失恋していた。 誰もが認めるほど素敵な男性。 でも………ゲイ。 元々私の想いは届くはずもない。 せめて友達としてでも側にいたかった。 それすらも許されずに………。 ホロ。 まだ涙は出るようだ。 ティッシュでそれを拭って、丸めて、ゴミ箱へポイ。 立ち上がり浴室へと向かう。 洗面所の化粧棚に、キラッと光るものを見つけた。 あぁ、ここにも思い出の残像が………。 私には不相応な、ピンクゴールドの指輪。 3つ並んだ石は、私の誕生石のピンクトルマリン。 私を安心させるために智志さんがこっそり選んでくれた指輪。 智志さん、優し過ぎるよ………。 あぁ、ダメだ。 また涙が出てくる。 いつまでもウジウジしてられない。 それを取り上げると、ハンカチに包んで部屋に戻る。 チェストの一番上の引き出しに、大事に大事にしまい込んだ。
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