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希はまだ知らない。
それがどれほどありがたいことなのか。
もうすぐ、ほんの2時間後にはそれに気付くだろうが。
散々怒鳴って、それでも文句を言い足りない様子の希だったが、神戸出発のバスにも遅れるようなことがあってはならないと、プリプリしたまま出かけた。
慎也も一緒に外に出た。
出かけ際、希の母と目があったような気がした慎也だが、気のせいかもしれない。
これまで生きている人間には見つかっていないのだから。
希の母はもう出かけるのを止めもしなかった。
慎也はボーっとしながら考えていた。
事故に遭ってから驚きの連続で、これ以上驚くことも少ないだろうと踏んでいたのに、その考えはすぐに否定されたのだ。
おっちょこちょいで、てっきりデキの悪いだけの後輩だと思っていた和田希が実は家族と先祖に守られて誰よりもその恩恵を受けていたなんて。
龍の言葉が頭をよぎった。
居合わせたにも因があり報がある。
居合わせなかったにも因があり報がある。
ほんの少しだけ理解した。と同時に目の前が真っ暗闇に変化した。
慎也は死を覚悟した。
龍の声が頭に響く。
ゆめゆめ忘れなきように。
大勢の魂を救うことができる。
それがそなたの役目ぞ。
だが、勘違いするではない。
そなたは生かされるのである。
死よりも時には辛い試練があるやもしれぬ。
我はそなたの母の祈りによって、そしてそなたの兄の願いによって、天照大御神さまと阿弥陀如来さまがお遣わしになった龍神である。
いつでも奪うことはできる。
母と兄の命はそなた次第ぞ。
決して奢るべからず。
奢るべからず。
奢るべからず。
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