プリンのある家

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. 冷蔵庫から出したばかりのひんやりしたカップを、 宝箱でも開けるようなワクワク感で、小皿にひっくり返す。 予め内側にサラダ油を塗っておいたカップから、 ツルンと抜け落ちた黄白色が、小躍りするようにプルルと揺れた。 うん。 気泡も出来ていない滑らかな側面。 山頂のカラメルも、煮詰め過ぎない程良い焦げ茶色。 久しぶりに作ってみたカスタードプリンだったけど、我ながらなかなかの出来じゃないだろうか? 宝箱から取り出した宝物を扱うように、丁重に小皿を運ぶと、 わたしはそれをそっとテーブルの上に置いた。 網戸から入る7月の風が、風鈴をチリンと1つ。 無音以上の静けさを奏でて、通り過ぎていく。 見ればその細かい格子の奥には、童心を蘇らせるような澄んだ夏空。 それはなんだかずっと昔から、変わらない輝きをそこに留めていたかのよう。 我が家の茶の間は、わたしが幼い頃から何も変わらず、 古さを愛着へと昇華させて、その陽射しを受け入れていた。 真ん中を陣取った大きなテーブルを中心に、小物が並んだ硝子戸棚があった。 半纏姿の女の子の人形は、家族旅行で買ってきたものだ。 大きなテレビの横には、クロスをかけられ、すっかり物置台と化しているカセットコンポ。 レコードもラジオも聞けるというお父さん自慢の優れものも、いつの間にか花瓶の台座に成り果てている。 いったいいつまで飾ってるつもりか。 お兄ちゃんが書道コンクールで優秀賞を取った時の賞状が、依然として定位置からわたしを見下ろしていた。 .
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