7人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
.
素朴でシンプルながら、深い味わいのカスタードプリンは、ずっと我が家定番のおやつであり、お母さんの十八番だった。
溶いた原液を丁寧に裏ごししてるお母さんに、わたしはじゃれつき、
「魔法みたい!」
と言ったのを覚えている。
この液体がやがて固形化し、最終的にプリンになるという過程が、幼いわたしにはだいぶ衝撃だったんだろう。
だからお母さんに付き添われながら、初めて自分でプリンを作ったあの日。
ちゃんとプリンとして固形化したそれに、魔法を習得したような感激を覚えたものだ。
そんなことを思い出しながら、プリンをもう一口。
滑らかな舌触りがたちまち中でとろけ、
優しい甘味がわたしを満たしていく。
すると今度は、台所からお母さんがやってきた。
お母さんはエプロンで手を拭き拭き、わたしのプリンを見て言った。
「あぁ、プリン。
美和が作ったの?」
「うん、そうだよ」
「綺麗に出来たねぇ。
どれどれ?」
お母さんに一口すくって食べさせると、お母さんは味を噛み締めるようにして何度か頷いて見せる。
「うん、よく出来てるじゃないの。
バッチリよ、合格、合格」
良かった。
師匠であるお母さんに、そう言ってもらえるのが一番嬉しい。
でも今日のわたしのプリンは、師匠の味にちゃんと並べたんだろうか?
何となくだけど、まだまだな気がする。
もしかしたらお母さんのプリンには、わたしは一生適わないのかもしれない。
優しく微笑むお母さんを見て、愛情の隠し味って、あながち嘘じゃないのかもしれないと思った。
やがて口の中のプリンの甘さが、余韻を残して消え失せた頃、
お母さんは忙しいそうに、どこかへ行ってしまった。
.
最初のコメントを投稿しよう!