プリンのある家

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. 素朴でシンプルながら、深い味わいのカスタードプリンは、ずっと我が家定番のおやつであり、お母さんの十八番だった。 溶いた原液を丁寧に裏ごししてるお母さんに、わたしはじゃれつき、 「魔法みたい!」 と言ったのを覚えている。 この液体がやがて固形化し、最終的にプリンになるという過程が、幼いわたしにはだいぶ衝撃だったんだろう。 だからお母さんに付き添われながら、初めて自分でプリンを作ったあの日。 ちゃんとプリンとして固形化したそれに、魔法を習得したような感激を覚えたものだ。 そんなことを思い出しながら、プリンをもう一口。 滑らかな舌触りがたちまち中でとろけ、 優しい甘味がわたしを満たしていく。 すると今度は、台所からお母さんがやってきた。 お母さんはエプロンで手を拭き拭き、わたしのプリンを見て言った。 「あぁ、プリン。 美和が作ったの?」 「うん、そうだよ」 「綺麗に出来たねぇ。 どれどれ?」 お母さんに一口すくって食べさせると、お母さんは味を噛み締めるようにして何度か頷いて見せる。 「うん、よく出来てるじゃないの。 バッチリよ、合格、合格」 良かった。 師匠であるお母さんに、そう言ってもらえるのが一番嬉しい。 でも今日のわたしのプリンは、師匠の味にちゃんと並べたんだろうか? 何となくだけど、まだまだな気がする。 もしかしたらお母さんのプリンには、わたしは一生適わないのかもしれない。 優しく微笑むお母さんを見て、愛情の隠し味って、あながち嘘じゃないのかもしれないと思った。 やがて口の中のプリンの甘さが、余韻を残して消え失せた頃、 お母さんは忙しいそうに、どこかへ行ってしまった。 .
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