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「キャラ、えでぃっと?」
「そう。この仮想世界で自分の分身として動かすキャラクターを作るわけ」
「あー、アバターってやつね。よくSNSである」
「そうそう。他の人と被らない名前付けて、種族とか顔とか髪とか身長とか選ぶ。結構細かく決めれるから」
「分身……か。赤坂くんは、自分の名前まんま付けてたよね。見た目も普通の男の子だったし。私も、なるべく自分っぽくした方がいいのかな?」
「いや、それは自由だ。せっかくのファンタジー世界なんだし、俺みたいな地味系じゃなく、非現実的で派手な外見にしたいって人が多い」
「何で赤坂くんは地味系なの?」
「俺なりのこだわり。“コンセプト”ってやつかな。俺はこの世界で、主人公じゃなく脇役でいたいんだ。もしくはモブキャラってやつ。その方が、自分を中心に世界を回すんじゃなく、自分が世界の一部に加わった気分になれるからさ」
「ふーん……よくわかんないけど。なんだかカッコイイね、こだわりって」
「我ながら消極的だけどな」
「なら、私もコンセプトを持って作ってみるね。消極的じゃないやつで」
あの日。漫画喫茶で初めて清水さんに〈IAO〉のレクチャーをした日から、俺と彼女の関係は少し特別なものになった。
ただのクラスメイトではなく、ただのギルドメンバーでもなく、かといって恋人同士でもない、特別な関係。
特別は特別でも、やはりそれだけじゃ物足りなく思えてきたのは、残暑もすっかり身を潜めた秋頃のことである。
―――これは、何かを賭けて誰かと戦う話でも、誰かと一緒に大冒険をする話でもない。
とある男子高校生と女子高校生が、甘酸っぱい青春を謳歌するだけの物語。
と、思っていた時期が俺にもありました。
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