序章・シニカル

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序章・シニカル

000/  もしも世界が嘘で回っているというのなら、きっと私は虚構の塊だ。  自分さえも欺きながらニンゲンに紛れ込んで生きている。  そんな私を人は社会不適合者だと後ろ指を指すのだけども自覚は皆無で、理由もまるでわからなかった。 「人として私はどこが間違っているんですか」  と、私に性的虐待を繰り返す義父に尋ねたことがあったけれど「そういうところだよ」という答えが返ってきただけだった。  意味はわからなかった。  違和感を覚えなかったわけではない。  集団生活を強いられる現代社会において”そういう”齟齬は幾度となく感じてきたことだし、だからこそ私は周囲に溶け込むための努力は一切惜しまなかった。  私の性質上、優等生にはなり得なかったものの、教師からの信頼は偏差値と比例するように容易く上昇したし、幸いにして私の顔貌は異性に好まれる形状だったらしく、男に躰を許すことで必然的に私の学校での地位は確固たるモノとなっていた。  もちろん私に肉便器と噛みつく女子生徒も中にはいたが、その罵倒をスマートフォンで録音し、教師に提出することで排除した。  そんな中で私は彼女――友寄頼子との邂逅を果たしたのである。  友寄頼子は私の初めての友達だった。友達だと明言できる初めての相手だった。  今までは私が友達と思っていても、相手がそれを拒絶したのだけども、友寄頼子は自ら私に「友達になろう」という提案を持ちかけてきたのである。  断る理由はなかった。  友寄は底抜けに明るい女子生徒だった。決して目立つタイプの人間ではなかったし、何か優れた特技があったわけでもなかったが、その笑顔にはいつも人が集まっていた。  そんな集団の中に私も入れるのだと思うと素直に嬉しかったのだけど、私が近寄ると他の女子生徒は教室から出て行ってしまった。  だから必然的に二人で過ごす時間が増えていったのである。  友寄は私に色々なことを教えてくれた。  それは教科書には載っていないものばかりだった。例えば化粧のやり方や、服の着こなし方、それから流行りの歌手や美味しい紅茶とケーキがでてくる喫茶店とか。  正直いってあまり興味はなかったが、友寄がいるだけで私は楽しかった。  まだ私が小さかった頃、夢うつつに聞いていたお伽噺のように。友寄の話は私を惹きつけてやまなかった。
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