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咥えたままの煙草に火をつけて、煙を思い切り吸い込む。
ふーっと長く煙を吐き出すと、奥二重の切れ長の目が、女の子を見つめた。
「俺が一度だって唯ちゃんをバカにしたことがあったか?」
揶揄るように小首を傾げ、双眸を細める。
唯はかぁっと頬を赤らめたまま、ツイと顔を背けてしまった。
「そうやって笑うの、反則」
唇を尖らして文句を垂れるも、唯は柴沢の顔を見ようとしない。
「何が反則なんだ」
「何でもないよ!」
語尾を噛みつかれた。
「矛盾したことをいう子だな、じゃあ反則でも何でもないじゃないか」
「あーもう、うるさいうるさい!」
「うるさいってお前な…」
「うーるーさーいー!」
「…これじゃあ会話にならないな」
そこまで告げると、柴沢は肩を竦めて煙と共に溜息を吐いた。
溜まった灰を携帯灰皿に落とし、もう一度深く吸い込んでいく。
今日は薄雲が掛かった天気で、新月なのか三日月だったのか、それともまんまるい満月だったのか、それはぼんやりとしたヴェールに隠されて美しい月を拝むことは出来なかった。
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