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──やっぱりか。
土曜日の昼下がりのカフェ。周りは、家族連れや、カップル、友達同士で賑わっている。
私の目の前に置かれたグラスの氷はすっかり溶けている。透明な水とオレンジ色の二層に別れた液体を無意味にストローでかき混ぜる。
向かい側に座る彼も、同じように薄まったアイスコーヒーを意味もなくかき混ぜ、視点の定まらない瞳で、景色を見ている。
氷が溶ける時間。
私たちに会話はなかった。
やっぱりか。
私はもう一度、頭の中で同じ言葉を繰り返した。
彼、櫻井 亮(さくらい りょう)とは大学を卒業後、就職先で出会った。
真っ白なシャツに、派手ではないが、センスの感じられるネクタイ。端正な顔立ちには嫌味はなく、性格も穏和で、気づかいも出来、頼れる先輩という非の打ち所もない人。私よりも二つだけ年が上だと聞いたときは驚いた。一般的に女性のほうが男性よりも精神年齢が二つは上だと言うが、彼に関してはそうは感じなかった。余裕を感じる。
完璧な人間。
これが初対面のイメージ。
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