死神の記憶-traumatic experience-

2/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ
 そこへ父親が戻り、覆面を被った男の頭を思切り壁に叩きつける、男は詩織を手放してイタリア製の大型自動拳銃ベレッタ92SBを抜くと、父親は男の腕を捻上げる。 「詩織!逃げろ!!」  詩織はリビングへ走った。すると、やはり覆面を被っていた男達に突飛ばされた母親がソファーの上に倒込んでいた。 詩織の姿に気付いた男達のうち、1人が詩織の方へ向って来る。  詩織は後退りして廊下に引返すと、父親と男はまだもみ合っていたが、その時丁度、詩織の目の前にベレッタ92SBが転がって来た。 詩織は咄嗟にベレッタ92SBを拾上げ、自分を負って来た男に向ける。右手人差し指をシアバーに添え、中指を引き金にかけて左手で余ったグリップを握る。彼女には軍用拳銃は重く、大きかったのだ。  引き金を引くと反動で詩織の腕は高く跳上がり、詩織の右手人差し指の付け根にスライドが当たって皮が裂け、室内で反響した銃声は一時的に耳鳴りと難聴を引起す。 気付けば男は倒れて首から血のあぶくを吹いていた。 「……!」  残りの男達も廊下に出て倒れた男の姿を見ると、スペイン語で何か叫びながら詩織にブラジル、トーラス社製の拳銃を向けた。それを見た母親は、男達に皿を投付ける。 惨状と銃声で放心状態だった詩織は、皿が割れた音で我に返り、皿を投げつけられた覆面の男達にベレッタ92SBを向ける。再び室内に響渡る爆音。 廊下に新たに4つの薬莢が転がり、覆面の強盗2人も倒れ、その内の1人は詩織を下敷きにした。  そして詩織は男の下で両腕を伸ばし、父親と格闘中の男にも銃口を向ける。父親と男は組合い、男が詩織に背を向けた状態のまま膠着状態に陥っていた。 「止せ!」  詩織の行動に気付いた父親の声は、銃声にかき消される。むしろ、詩織には直前の銃声で最初から聞こえていなかったのかも知れない。 母親が廊下に出た直後、ベレッタ92SBの撃鉄が落ち、2人は倒れた。 そして2人共、2度と立上る事は無かった。 “中米南部にあるバルベルデ共和国において、杉野グループ専務の園原 真純さん(34)が自宅で4人組に襲われた。地元警察の発表によれば、この事件で園原さんは死亡したものの、妻子は無事。園原さんの自宅に押入った4人組については身代金目的の誘拐によるものとして、背後関係を捜査中とのこと”――帝都新聞、20xx年、10月17日の記事より抜粋。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!