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「あ、妻夫木くーん、ごめーん、待った?」
「待ったって?当然待ちました。お前にメールを送ったあの時刻から今まで、きっちり一時間待ちました」
「だよねー。私もそう思ったんだけど、もしかしたら妻夫木君が、『いや、全然。今来たばっかりだよ』とか言ってくれるかなーって」
「言うか!」
「でもそれが恋する男女の決まり事でしょ?」
「いや、恋してないし」
「そんな即答しなくても」
「だいたいおまえさ、人にアパートまで来いって呼び出しておいて、ヤッてんなよ」
「あ、やっぱ来てた?そんな気はしたんだけどさ。しょうがないじゃん、突然来るんだもん」
「俺がか?」
「あっちがよ」
「断われよ。友達が来るからとか言って」
「断わったよ。だけどいきなり上がり込んできて玄関先で襲うんだもん。『ちょっとやめてよ』って言ったら余計興奮しちゃったみたいで、もう相撲で言えば『寄り切り』?って感じでガァーっときて、そんでもって、くるっと私を半回転させて後ろからまたガァーって」
「ったく。そもそもお前、試験勉強で手が離せないから、って言ってただろうが。だからわざわざ頼まれてたノート届けに来てやったのに」
「いや、ホントに試験勉強してたんだって。彼から電話があったときも、今日は駄目ってちゃんと断ったんだよ」
「ふーん」
「でもさ、ダメって言うとなんか燃えちゃうみたいでさ。本当の『駄目』と、バッチこーいの『ダメ』と区別がつかないんだもん。やになっちゃう」
「パブロフの犬かっつーの」
「ねえ、結構聞こえてた?」
「何が?」
「アノ声」
「はっきりとは聞こえなかったけど、息遣いとか、不自然な物音とかは聞こえたなぁ」
「やば。ちょっと気をつけよ」
「ヤルならちゃんとベッドでやりゃいいじゃねぇか」
「いや、最近ちょっとマンネリなんで」
「アホか」
「でもねでもね、今日は一段と感じちゃったんだ。『あ、妻夫木君が来ちゃう、来ちゃう、どうしよう』とか思ってると、こうなんかカァーって火照ってきて。エレベーターが止まる『チン』っていう音が聞こえる度に『キュッ』って締まっちゃうのよ」
「おれ、いいようにネタにされてるな」
「でも、お陰様で、スッキリサッパリ。これで試験勉強もはかどるわ」
「結局お前がしたかったんじゃん」
「いいのいいの、終わり良ければ全て良し、って言うでしょ?」
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