第1章

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「おまたせ」 しばらくすると、半蔵門線の改札の前で待っていた僕のところに、彼女のあさみがやってきた。 「大丈夫。それよりレポート終わったの?」 「うん、なんとかね」 「そっか、なら、良かった」 僕は少しだけ笑った。彼女は大学生、とあるサークル活動を通じ知り合った。そこからはお決まりのパターンとでも言うのだろうか。同級生に比べると大人な僕に惹かれ、もっとも社会人をやっていて大学生よりも子供なやつがいるのならお目にかかってみたいが、とにかく僕らは付き合うことになった。そして、今こうしている。 「お腹空かない?」 「うーん、少し」 彼女がこう答える時は、往々にしてかなりの空腹なことが多い。おそらく小食な自分を演じているからではないかと、僕は考えているが真意のほどは定かではない。 「どっか、いいところ知ってる?あさみの大学、渋谷だったよね?」 「うーん、渋谷ではあるけど、学校は東の方だからね」 よくテレビなどで見かけるスクランブル交差点、それにハチ公、渋谷のランドマークとなっているものの多くは西口に多い。最近こそヒカリエなども出来て東口が注目されることもあるが、西口のそれとは比べものにならない。だから、あさみは渋谷に詳しくないとでも言いたいのだろう。 「それでも、学校の側とかにいいところあるでしょ?」 「えー、学校の方に行くのー?」 あさみは嫌がった。歳の離れた彼氏と一緒に学校の近くに行ったら・・・それを想像しての事だろうが、その仕草が僕のいたずら心を刺激する。結局根負けしたあさみは一軒のレストランに連れて行ってくれた。 「ここでいい?」 彼女は階段の前で言った。 「ここ?」 階段を見上げて見るが、特に店舗らしきものは見えない。だから、どんな料理を出す店なのかも見当つかない。それでも、あさみの判断に間違いはないだろう。僕は首を縦に振った。 わりと長い階段を登ると、オレンジ色のライトがいくつか目に飛び込んできた。 「ふーん」 「何?やだった?」 僕の言葉に、彼女は心配そうな声をあげた。 「ううん、その逆。あさみは、だんだんと俺の好みわかってきたなーってね」 「なんだ、冷めた感じに言うから、なんか嫌なのかと思っちゃったよ」 「ごめん、ごめん」 開きっぱなしのドアを抜けると、オレンジ色のライトがさらに鮮やかに目に飛び込んでくる。店内は昼間だと言うのに薄暗かった。
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