瞳の中で

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蝉時雨がそこら中から響いている、よく晴れた日のことだった。腕時計をちらと確認する、待ち合わせ時間にはまだあと少しあるけど、待ちきれなくて車の窓を少し開け、外を眺めた。 啓太がベルリバティスクールの教師になり、俺は鈴菱の本社に戻って仕事をしている。元々忙しかったが啓太が社会人になったことで会える時間が更に減った…寂しくないと言えば嘘になるが、それよりも少し嬉しさが勝る。なにせ啓太が、祖父の残したあの学園の教師になってくれたんだ。もちろん俺は手出ししていない。自分の努力だけで教員免許を取り、ベルリバティスクールに勤めることになった。それが何よりも嬉しくて、誇らしい。祖父もきっと喜んでくれるだろう、鈴菱鈴吉……初代理事長だった祖父は決して甘い人ではなかったが、それでも確固とした理念を持って学園を築き上げた。祖父にとっても、俺にとっても大切な場所だ。そこに、啓太が関わってくれている。そう考えるだけで自然と口元が緩んだ。
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