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どこまでも荒れ果てた灰色の戦場。いたるところに爆発物が炸裂した跡、破壊されたトーチカが点在するここで、幼い彼は体に見合わない大きさのアサルトライフルを担ぎ、ボロボロの布を体に巻いて立っていた。
彼の瞳に生気は見受けられない。どす黒く濁ったそれは灰色の空を虚しく見つめ、視点が定まっていない。
彼の足元には血が滲み赤黒くなった土。そしてその上には兵士と思われる装備を身に着けた死体が乱雑に転がっている。
【よくやった、雛樹。偵察兵相手とはいえ、数分で制圧できるとは、大したものだ】
【……】
背後から聞こえた恐ろしく冷たい男の声に、彼は肩越しに声の聞こえたほうをその虚ろな双眸で覗く。
【流石は私の息子だ】
【お父さん、僕もうこれ……嫌だ】
彼は持っていたアサルトライフルをなんの感慨もなく投げ捨てる。先程まで自分の身を守っていたそれを。自分にとっての敵を排除したそれを。
つかつかとこちらへ歩を進めて来た“お父さん”は幼い彼の頬を思いっきり殴った。何のためらいもなく、呵責もなく。そして、感情もなく。ただ無機質に、淡々と殴る。
幼い彼はたたらを踏み、尻餅をついてしまった。べシャリと血だまりの中に両手をつき、さらに近づいてきた“お父さん”を見上げる。
【いや、じゃない。やるんだ】
【いつまで……?】
腫れて赤色を帯び、ずきずきと痛む頬を抑えながら彼は聞く。帰ってくる答えは分かりきっている。しかし……聞かずにはいられなかった。
【この戦争が、終わるまでだ】
その言葉が、そのお父さんから聞いた最後の声だった。そのお父さんの後方に見えた巨大な影が、彼の存在をそこで断絶させてしまった。
その影はお父さんを喰らい、そして次にその幼い彼に目標を変え――。
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