遅咲きの繚乱

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動揺して抜こうとしたが増えるという噂を思い出してやめた。 もちろん髪の毛にはもうとっくに白いものが混じっている。 若白髪だと言い聞かせるのはとっくに諦めた。 ハゲていないんだからそれだけで幸運なんだろう。 はあと肩を落としながらトイレを出る。 ベッドに近づくと、足をベッドの下に入れて腹筋をする。 誰に見せる予定もないんだから、こんなことしたって無駄だ。 わかってるんだけど……もしかしてのその時にとか。 抱かれたい方だから、ちょっとは綺麗で居たいとか。 マッチョになるのは絶対嫌なんだ、細いのがいいんだ。でも、凝り性で習慣になるとなかなか抜けなくて 、筋トレの回数がどんどん増えて行って、気がついたら結構腹筋が割れて来たりして。 肩幅広くね?とか。 止めればいいのに、止めちゃって腹ぽこになったら大惨事っていうか、四十で肥ったらますます見向きもされないとか、うじうじ悩んだり。 多分、全部無駄な努力なんだ。 三十九年生きてきて、誰にも見向きもされなかった。 これから先だってきっとそうなんだと思う。 ハッテン場みたいな所に行ってみようかと考えたこともある。 調べて、考えて、考えて、考えまくって。 でも、結局勇気が出なくて。 諦めてしまった。 運動が終わって、風呂に入る。 身体を洗っている時に、悩んで悩んだ挙句、結局白い毛を引き抜いた。 罪悪感と不安とそれからごまかせたという安堵。 着古したパジャマを上下きちんとお揃いで着て、ごしごしとタオルで頭を拭きながら、カーテンを引いていない窓ごしに向こうを見る。 向こう側の窓は暗い。 帰って来てないんだな。 向かいの部屋にはすごく見栄えのする若い男が住んでいる。 ……なんというかオレの好みの。
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